昭和初期に曳いてきたという古民家
残念ながら築年数は不明です。
工事中に和釘が古材から出てきたところからもともとは明治30年以前の建物と推定されます。
電話でご相談をいただき事務所にお越しいただきご相談から始まりました。
素材に対してとても敏感な方の住まいです。
使える素材、使えない素材を確かめながら少しづつ行う古民家リフォームです。
正面外観としては向かって右側がリニューアルした面となります。
外壁:通気工法の上漆喰仕上げ
腰板杉無地(下見板張り)
断熱材(ポリエステル断熱)
屋根:瓦既存を使用、トップライト(ベルックス)
耐震基礎補強 壁補強と行いました。
とても清涼感のある空間になりました。
理由は無地のサワラの床板にあるようです。
サワラは色味が白く均一なため癖がありません。
桧や杉よりも主張しない材料です。
床:サワラ無地30mm
壁:モンモナイト(漆喰美人)下地:吉野石膏PB
天井:本物布クロス(でんぷん糊)
床をサワラにした理由は木材由来の揮発性成分がとても少ないからです。
木材からも天然の化学物質が出ています。ある人にとっては良い香りも人によっては厳しい香りになりえます。
また同じ木材でも節が多くある木材は香りがきつくなります。
特に敏感な方は実物で確認してからの使用をお勧めします。
壁のモンモナイトは粘土で化粧品の成分にもなる、非常に安全性の高い素材で香りもほとんどありません、これを原料にして鉱物質の顔料を加えています。
天井には布クロスを使っています。
今では本物の布クロスも少なくなりましたが良い素材は残っています。化学糊は使わずでんぷん糊りで貼りあげました。
障子:建具杉
和紙:楮手漉き和紙
余計なものを省くため引手金物も使わないで掘りこみとしています。
障子紙は畑で育てた楮と、とろろあおい 井戸水から作る畑でできる和紙です。
糊は米粉糊を使います。
できるだけ薄く漉いていただいた和紙は品があり美しいものです。
黒い建具は古い建具です。昔囲炉裏でいぶされた色です。
完了を迎えました。
ほぼ7か月かかりました。
お話をいただいてからほぼ一年がたとうとしています。
いろいろ素材を試したりメーカーと交渉したり試行錯誤の連続でした。
安心して住めるのかまだこれから試されます。
1期工事としたのは向って左側の改造がまだ残っているからです。しばらく年単位で休憩し改装した部分に慣れたらおいおい取り掛かります。
自然素材だから安全なのではなく、その方にとって何が安全なのかが問われます。
例えばウールの断熱材はウールに含まれる防虫剤がダメでした。
化学物室ですが衣類ではポリエステルは大丈夫とのことからポリエステル断熱材が使えることが分かりました。
また、桧や杉の木材が発する化学物質もできるだけ抑えるため、放散量の少ないサワラを多用しました。
最新の注意の上で施工しましたがまだしばらくは換気をし通気を図り様子を見ての暮らしとなります。
今回の施工にあたっては(株)小澤建設さんにも大変お世話になりありがとうございました。
今回の仕事でとても参考になった資料を上げておきます。
1:化学物質過敏症を工夫で乗り切る(住まい対策実践編)足立和郎著
2:健康な住まいづくり ハンドブック ひと・建築計画著
工事中に出てきた和釘
和釘が使われていたのは明治30年中盤までです。
それ以後はほとんど使われていません。
古民家の年代推定に使われます。
もともと2階へは箱階段を使います。
今回も箱階段はそのままで底板のみ貼りました。
しっかりして安心感も出ました。
急なのは変わりませんが
ちなみにこの階段は置いてあるだけ、
動かせちゃうんです。
これからもそうなんです。
卵色の壁と白い天井に黒い建具
黒い色は昔ここが台所でかまどを使っていたから
いぶされた杉の建具なのです。
建具の手前は以前は3尺幅の中廊下で今回は廊下部分もダイニング空間に取り込みました。
卵色の壁は漆喰に鉱物質の顔料を加えます。
漆喰の白と建具との対比を柔らかくしたかったからですが、よかったなと感じてます。
壁は漆喰に見えますが鉱物原料のモンモナイト漆喰に比べほぼ無臭、漆喰は独特の匂いがしまので避けました。
天井は布クロスのでんぷん糊貼り
床はやはり揮発成分と香りがほぼ無いサワラを使っています。
これで工事は2/3が終わり、住みながらなのでこちらに移動していただき残りを始めます。
浴室仕上がりました。
見かけよりかなり苦労した浴室です。
樹脂製のユニットバスがシックハウスの関係で使えず、浴槽は鋳物製を使いました。
タイル自体は問題ないのですが、接着剤を使いたくないので昔ながらの団子張りという張り方で、タイル職人も忘れかけていた張り方です。
下地モルタルも混和剤無しでセメントと砂だけです。
浴室の室内側
結露防止処理をしたうえでポリエステル断熱を入れる。
浴槽セット完了
昔のつくり方
この上に貼るタイルも昔の貼り方
団子張りという。
年配の職人さんしかたぶん経験がない貼り方でセメントと砂だけで貼っていく接着剤は使わない。
私も25年ぐらい前に現場で見たのが最後かな
こんな感じで納まりました。
メーカーはベルックス
アルミ+樹脂+木製+アルゴンガス
雨センサー付き
天窓はまだまだ国産より北欧製が有利だと思います。
大きな家ではどうしても暗くなりがち、風通しの改善と合わせ開閉タイプの天窓はとても有効です。
天井にも断熱材が入りました。
ポリエステル断熱パーフェクトバリアー200mm
化学繊維ですがCSの方にもある程度は受け入れられる断熱素材です。
自然素材がきつい方にはお勧めできます。
外部は通気工法の上で「ささらこ下見板張り」杉板で伝統的な工法です。
長い歴史の中で選択されてきた工法は理にかなっていて尚且つ美しいものです。
サワラ30mm床板貼ってます。
接着剤は使わない貼り方を選択。
小さな
杉の垂木
垂木は30mm角
野地板も杉
手間は掛かりますが品のいい仕上がりになると思います。
床板が入りました。
サワラの18mm×30mmの節無し無地
なかなかお目に掛かれない材料です。
サワラを選んだ理由はホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどを含んだ揮発性化合物が桧杉に比べ少ないからです。
木材からも天然の揮発性化合物がでます。
アレルギーの方は特に桧やヒバには注意が必要です。
根太は杉の120×45を使う。
最近の多くの家づくりでは根太は使わないで構造用合板の24や28mmを敷き込む
べニアを使わないとすればこのように根太方式となるが、床荷重を受けるだけであれば120もいらない60mm半分もあれば十分である。
ではなぜ120なのか
それは断熱と関係し、ポリエステルの繊維上断熱材を120入れるため、根太本来の床荷重を受ける役目以外に断熱受け材としても活躍してもらう。
この現場では合成樹脂接着剤とべニアは一切使わない。
新たにつくった基礎に土台と柱が載る。
ある意味既存の壁よりは新しく作った壁のほうが耐力的に期待できる。
耐震改修でもそう古い躯体に過度に負担をかけるのはよくない。
可能であれば基礎ごと新たに構造体をつくり過重を負担する。
新たに壁をつくる部分には当然基礎も作る。
耐震性を確保することも大切
屋内屋外とも給水給湯配管はステンレス配管
一般的には架橋ポリエチレン管や硬質塩ビ管が使われます。
架橋ポリエチレン管を使えばシームレスで継手の無い(漏れる心配のない)配管が出来るというメリットがあり、現在一般的にはこちらが使われています。
ステンレス管は継手があり漏水の危険が無いとは言えません。
また耐久性能は優れていますがゼツタイに錆が出ないというものでもありません。
なぜ使うのかと言えば塩ビ可塑剤などからの化学物質の溶融を恐れてですがこれがどの位問題になるのか難しいところではあります。
ステンレス配管はコストが高いので通常は当事務所では架橋ポリエチレン管で良しとしています。
左写真奥が布クロス+澱粉のり
右が土佐和紙+澱粉のり
布クロスはほんとに柔らかい質感がある。
和紙は清潔感と表現したい。
どちらも素材が良いので化学糊は使うべきでは無い。
澱粉のりで使いましょう。
澱粉糊は保存がきかない。
夏場は腐る
使い勝ってはよくない
でもそういうものだから。
本物布クロスに澱粉のり
モンモナイト塗り壁
どちらもプラスターボードにてサンプル作成
小さなサンプル帳では判断できない場合は大きく作ります。
たとえば浴室
ユニットバスはこの家には使えない。
となると昔ながらの造作のお風呂
浴槽はできれば既製品を使いたい。
建築コストやメンテナンスを考えるとやはり浴槽ぐらいは既製品を組み込みたい。
他に選択肢としてはタイルでつくるか木製か
金属アレルギーなのでステンレスは不可
となると樹脂以外では鋳物ホーロー
現物ミニチュアサンプルを借りてきました。
これなら大丈夫か
調理のお鍋もホーローは使っているとのこと。
でも問題が、
鋳物浴槽の裏には保温のためのウレタンが接着されているのです。
こちらも標準ではウレタン接着で製品ですがウレタンなしで納品の予定です。
当初はホーロー浴槽といえばタカラスタンダードということでタカラのサンプルを借りて検討してきましたが、結局メーカーとしては(ウレタン断熱を施しの商品)完成していない商品をお出しすることはできませんとの回答
まあメーカーとしてはそうなんでしょうね。
という流れから融通の利く大和さんとなりました。
ポリエステルという選択
何時も当事務所で使用している断熱材は3種
「ウッドファイバー」「ウール」「セルロースファイバ」
3種とも主原料は自然素材ですが自然素材であるがゆえに防虫剤や難燃剤が使用されています。
今回はそれを避け、ポリエステル断熱となりそうです。
ペットボトルのリサイクルです。
ポリエステルは石油由来の原料ですが、依頼者さんはサランラップやペットボトルには反応しないのです。
ポリエステルは1940年台から造られ衣類などで普及してきた原料です。
症状に合わせていくと自然素材だけがいいとは限らないということです。
無垢材とはいえVOC類 化学物質アルデヒド類は出ている。
針葉樹から放散するアルデヒド類はホルムアルデヒド、アセトアルデヒドがほとんどで樹種により大きく異なり時間経過とともに減少する。
アセトアルデヒドの放散量は桧類で多い。また辺材より心材の方が放散量は多い。
また、人工乾燥材の方が精油成分が抜け天然乾燥材より放散量は少ないようである。
ホルムアルデヒド放散量
桧>杉心材>トウヒ>杉辺材>さわら>赤松>ネズコ>唐松
唐松に比べ桧は約6倍
アセトアルデヒド放散量もほぼ同じ傾向を示す。
ただいまサワラと唐松で検討中
写真は左から杉 サワラ 桧
桧がいい香りと言えるのも健康の内ですね。
資料:(独立行政法人)森林総合研究所
「木質建材から放散される揮発有機化合物の評価」2005.9
を参考にしています。
頼んであったカラマツのサンプルが長野から来ました。(下の写真)
無節のカラマツはまず取れない、物がないということでした。
白い部分と赤い部分とかなりうるさいですね、経年変化で均一な色合いに落ち着きますがログハウスのようになってしまいそう。
どうも使い慣れていないので私的にはいまいち。
答え:寝室や居室で永くいる部屋はサワラ30mmとしました。サワラも節が多くあるものは成長ホルモンが多く、アルデヒド類を多く発散するとのことから無節を使うことになりました。
すべてサワラの無節では予算的に厳しいことから、廊下や玄関などは杉30mとしましたが安全を見てやはり無節です。
杉は当初アルデヒド類を多く発散しますが短時間(2~3年)でサワラと同程度まで揮発性成分が抜けると森林総合研究所の資料にありました。
桧やヒバはそのような観点からはとても使えません。
プラスターボード等とても便利な素材があります。
使えるのか?
石膏を主成分とし板状に成形したものに特殊な紙を貼り、各種仕上げ材の下地として広く使われています。
これを使わない住宅は今の時代ではほとんど見ることが出来ないというくらいスタンダードなものです。
石膏の原料は天然石膏(輸入)が約20%で化学石膏が80%とのこと
かなり安全性は高いとされているがどうなのか検討中
使わないとすると衣摺下地で仕上げか
プラスターボードに関しては吉野石膏は違和感があり不可
千代田石膏のプラスターボードは違和感がないということでメーカー指定で使うことになりました。
おそらく表面に使われている紙質(再生紙)の差ではないかということで、原因は特定できませんでした。